アンティーク懐中時計を買いたい・・・そのまえに

”アンティーク懐中時計が欲しい!”・・・と思った時に考えるべき事とは?

お客様から懐中時計選びについて時折ご相談・ご質問を受けることがあります。
それで、以前 どうやって選ぶ?”おすすめの懐中時計” を決める8大ポイント というコラムを掲載しました。

その中でもさり気なく触れたのですが、皆さんは、何を基準に懐中時計を選んでいますか?

価格でしょうか?ブランドでしょうか?スペック?それともデザインでしょうか?

実は、それよりも前に考えておいて頂きたい一番大切なポイントがあるのです。
僕も当初、このネットショップを始めるにあたって一番悩み、苦労した点はここかも知れません。

それはズバリ、購入後のアフターケアが受けられるかどうか? だと僕は考えています。

僕自身、かつてネットオークションで初めて手にした懐中時計が全く動かなかった時のガッカリ感。
そして、誰もサポートしてくれそうにないという冷たい感触にゾっとしたものです。

懐中時計を買うときにご自身が本能レベルで欲しい!と思うものを掴むことはとても大切。
しかし、それ以上に、アフターの対応ができるかどうか?が実は何より大切です。

そんなアンティーク懐中時計との付き合い方について、僕の思うところをまとめてみました。

アンティーク懐中時計はアフターケアができるかどうか?で選ぶ→これが鉄則

アンティーク懐中時計とは、とても奥が深く、中でも興味深いのは年代が同じでも状態は全く違う点です。
同じメーカー、同じモデル、同じタイプのムーブメント、同じような外見であってもです。

その時計がどのような歴史を歩んできたか、そこに大きな違いが生まれます。

・忙しく走り回る営業マンが年中持ち歩いていた懐中時計なのか。
・宝石箱に普段は飾られ、時折動かす程度で守られてきたものか。

こうした違いは、何十年、ときには100年を超える時代の中で、大きな差となって現れます。

問題は、状態の悪い時計が止まってしまうことではなく、それをケアできるかどうかです。

アンティーク懐中時計の場合、電池交換一発で時計が動き出す…というワケにはいきません。
熟練の時計職人がパーツを丁寧に分解して1つ1つ洗浄・注油し、それを組み上げて動作をチェックし、
不良個所があればパーツを修理、ときには全くスクラッチの状態からパーツの製作すら行います。

保存状態が多少悪かったとしても、腕の良い時計職人がいれば殆どの場合は問題ありません。
経年によって傷んだパーツをオーバーホールの際に交換・再製作することで本来の性能を取り戻すからです。

しかし、これは多くの時計店で修理できません!と言われます。
腕の良い時計技能士さんであっても、古い懐中時計のオーバーホールはできない場合が多いのです。

一般的な時計店がオーバーホールとして受ける時計は腕時計やクロック(置時計・掛け時計)がほとんど。
そこに懐中時計はあってもその大半はクォーツでしょう。

1世紀も前の機械式懐中時計を『直せます!』というところはなかなか無いのが実情です。

Cocoon Watchがまだ影も形も無かった当時。インターネットがようやく普及してきた頃のこと。
最初の懐中時計を手にして僕が知ったのは、近所の時計屋さんで、懐中時計は直せないという事実でした。

大丈夫!それなら俺に送ってこい!

そんなある日、朗報が飛び込んだのです。
僕と近しい方が、懐中時計のオーバーホールも全部できるというではありませんか!
そんなことで悩んでいたのか。それなら俺に全て任せろ!と。

僕は二つ返事で時計を彼の元に送り、彼の修理担当に頼むことにしたのです。

…ところが、3日もしないうちに『ダメだ、やっぱりできない』との返答。

修理担当者は熟練の時計職人さんでしたが、パーツの予備が無く、請け負えないと拒否されてしまったのでした。
しかし彼は、それでも大丈夫だと、業界大手の平和堂貿易さんに送ってオーバーホールを依頼してくれたのです。

ちなみに、修理を依頼したものはウォルサム。

平和堂貿易さんは、時計・宝石を扱う大手。現在のウォルサムも扱っています。あそこなら大丈夫だろう、と。

それから数日後、こんどは平和堂貿易さんからも『このウォルサムは修理ができません』との返信。

それもそのハズ。平和堂貿易さんが扱っているのは現在の(スイス製)のウォルサム。
アメリカで栄華を誇ったウォルサムとは別物。構造が全く異なるため、オーバーホールはできなかったのです。

平和堂貿易さんと言えば、時計・宝石業界では確実に老舗。子供のころから何度となく耳にしていた名前。
そこでもオーバーホールは受けて貰えないと知って、懐中時計のオーバーホールとは大変なものだと思ったものです。

オーバーホールにも色々

さて、懐中時計のオーバーホールと一口に言っても、色々あるようです。
僕の知る限り、下は5,000円くらいから、上は10万円以上と、実にピンキリ。
費用が高い方は機構、修理の度合いなど、それなりに理由があります。

しかし、1万円以下でオーバーホールができるのか?というと、正直どうかなと思います。
同じオーバーホールという呼び名でも、中身は別物なのです。

あるお店でオーバーホールしました!という懐中時計が、別の技能士に見て貰うとそんなバカなと言われる。
『これ本当に、オーバーホールしたのぉ?』という反応が返ってくるのです。

懐中時計を知るほど、そのメンテナンスの程度にはかなりの差があることに僕はあるとき気が付きました。

インターネットでアンティーク懐中時計を買うリスク

インターネットの普及により、誰でも安価に懐中時計が購入できるようになりました。
しかし、インターネットでは実機の詳しい状態については販売者に委ねられています。

外観は写真を沢山掲載して貰うことで、大体の状態が分かります。
しかし、内部の状態までは分かりません。
商品説明に、”現在、そこそこの精度で動作しています。”と書かれてあったら…。
日常利用でも大丈夫かな?とあなたは思うかも知れませんね。

しかし、これは何十年、ときには100年を超える古い懐中時計です。
販売業者であれば、今すぐオーバーホールが必要かどうか、ある程度見分けが付きます。

しかし、単に ”動いている” のと、 ”良好な精度で動作している” の間には、大きな開きがあります。

極端な話をするなら、1分でも動けば、”一応動作はするようです” なワケです。…でも保証は無い。
日常利用できないとしても、『それはどこかでオーバーホールしてくださいね。その分安くします!』と。

本当にそれで良いのでしょうか?アフターケアの無いお店で買うのは不安ではありませんか?

確かに、それはそれで賢い買い方なのかも知れません。
しかし、容易にアンティーク懐中時計のオーバーホールができない現代。
オーバーホールを担保できないお店で購入アンティークの懐中時計を選んでしまうのはどうかと思います。
ネットオークションの購入に至ってはかなりのギャンブル。玉石混淆でしょう。

古くて程度の良い骨董には価値があるが・・・


アンティークの懐中時計は美しいものが多いです。
中でも、20世紀前半くらいまでのものは、手間もコストも掛けた製品が無数に作られました。

懐中時計が誕生したのは、16世紀くらいと言われています。
今でも古いバージウォッチや、レバーフュージーなどの掘り出し物が取引されているようです。

当店にも、バージウォッチは扱わないのですか?というお問い合わせをたまに頂きます。
結論から言うと、当店では扱いません。修理に対して責任を持てないからです。

もし、直せたとしても、費用面でかなりの高額になるのは避けられません。
お客様にリーズナブルに懐中時計を楽しんで頂きたいという当店の運営ポリシーには合わないので、扱わないのです。

古くても程度の素晴らしい懐中時計には高い価値があるのは分かります。
しかし、それはメンテナンスできてこそ意味のあるもの。元気に動くようケアできなければ価値はありません。

安くて満足に動かないものを幾つも集めるくらいなら、1つでも綺麗でしっかり動くものを持つ方が良い。
僕はそう考えています。

オーバーホールしてもトラブルはある→それがアンティーク

アンティーク懐中時計は、同じ年代、同じモデルでも程度にはかなりの差があると書きました。
オーバーホールによって、分解洗浄とパーツ交換・製作によって、本来の精度を取り戻します。

が、腕の良い技能士がオーバーホールを行っても、納品後にまた壊れてしまうことがあります。
それは決して珍しいことではなく、見えない箇所のダメージが表面化してきたにすぎません。
他の箇所を直したことによって、今まで隠れていたトラブルが浮き上がってきたのです。
これは、一定の確率で起こるものであり、ある程度は避けられません。

ですが、それも原因を究明して直してしまえば、その時計が持つ本来の精度を取り戻します。
アンティークとはそうした、ちょっと手間の掛かるものなのです。彼らは、90歳、100歳のお爺ちゃんなのですから。

長期間メンテナンスを受けずに使われ続けた懐中時計など、往々にして見えない部分に傷みがあるものです。
しかし、きちんと原因を調べて対応をしてくれる時計店であれば安心だと言えるでしょう。

そうしたアンティーク懐中時計ならではの特性を知って、優しい気持ちで気長に接してあげることも大切です。

保存状態の大切さ

懐中時計に限ったことではありませんが、オーバーホールで直せる範囲には限りがあります。
具体的に言うなら、オーバーホールの対象はムーブメントです。
ただ、例外的に、ガラスの交換、あと針などはストックが見つかれば交換ができます。

腕時計と同じで、外装に関わる部分は、ほぼ修理ができないものと思ってください。
蝶番の緩みや破損、ケースのスクラッチ、ベゼルの紛失、文字盤のひび割れ、チップなど。
クラウンやボウを紛失してしまった場合も適合するものを探して修理するのはかなり難しいと思います。

もちろん、時計店の中には、蝶番をロウ付けして修理しますとか、文字盤をリダンして綺麗に修復します!
というお店もあるでしょう。

…しかし、やはりロウ付けすれば痕が残りますし、リダンされた文字盤には何か違和感を感じるものです。

だからこそ、保存状態は命だと言えます。あなたを魅了するその時計。そのモデル。そのデザイン。

誤解を恐れずに書くならば、掘り出し物の懐中時計が動く・動かないは二の次なのです。
まずはその懐中時計の保存状態がとにかく良いかどうか。ココを見ること。
保存状態さえ良好ならば、オーバーホールのできるお店を選んでおけば問題ないのですから。

気軽に相談できること


アンティーク懐中時計を持ったことの無い方には、『興味はあるけれど何だか難しそう?!』
それがアンティーク懐中時計に対する正直な印象ではないでしょうか?

アンティーク時計ショップの場合、経営者=時計職人というところもあると聞きます。
そのスタイルを否定はしないのですが、僕の知る時計職人さんは割とガンコな方が多い(汗)。

技術に対して厳しい分、どうしても時計の扱いに関して厳しい方が多いんですね。
言い方を変えるなら、人付き合いはあまり得意ではない職人気質と言っても良いでしょうか。

僕はそうした技術職人さんが悪いとは思いません。
そうした厳しい目線があるからこそ、高い技術に裏打ちされた素晴らしいメンテナンスが受けられるのですから。

但し、一般のお客さんには、そうした時計職人の意見を手厳しく感じて凹んでしまう方もいらっしゃるようです。
僕ら小売店の役目は、お客さんの意見と、時計職人とのクッションとなって、両方の言い分をうまく調整すること。
小売店とは、そうあるべきかなと考えています。

まとめ


今回は、購入後のアフターケアに焦点をあててコラムを纏めてみました。

なぜか?それは、他所様で購入した懐中時計がオーバーホールはできないケースがあるから。
オーバーホールを求めて、当店に相談を持ちかける客様が時折いらっしゃるからです。

アンティーク懐中時計をその場の売価だけで比較・判断するべきではないのかなと思います。
結局、すぐに動かなくなって余計にコストが掛かってしまうのでは本末転倒ですから・・・。

もちろん、当店も専門店なので、お客様の相談はできる限り受け付けています。
しかし、表面上の安さだけに囚われず、長い期間のトータルコストを考えて欲しいのです。

できる限り保存状態が良い懐中時計+アフターケアができるお店を選ぶ

これこそが、現代にマッチした懐中時計選びのツボではないでしょうか。
あなたが懐中時計に興味を持ったら、まず先にメンテナンス。そして保存品質。それから相談できること。
懐中時計を選ぶ際に、併せて参考にして頂けると幸いです。