【懐中時計の重要な素材】銀無垢って難しい。

今日は銀無垢(Solid Silver)について書きます。
”銀” とは、銀という1つの素材があるワケではありません。
銀無垢は、英国製の鍵巻き懐中時計のケースによく見られる素材です。

銀素材のケースを、よく”銀無垢”や”ソリッドシルバー”などと呼ぶことがありますが、銀100%のピュアシルバーだけではとても柔らかすぎて使えないため、通常は他の金属を混ぜて使います。日本では銀素材に銅を混ぜていることが多く見られます。

金(ゴールド)も、その純度によって、24K、18K、14K、10K・・・と表記が下がって行きますが、銀も非常に柔らかい金属なのです。
銀も金と同様に、千分率によって、厳格に品位分けされています。
造幣局では、銀の品位を1000, 950, 925, 900, 800の5種類に分類しています。
そして、さらにこの5種類を細分化した銀の詳細を以下で説明します。

SV1000:
純度100%の銀で、ピュアシルバーやファインシルバー、純銀とも呼ばれ、美しい白銀ですが、爪で簡単に傷が付いてしまうほど柔らかく、そのままでの取り扱いや金属加工には全く向いていません。

SV999:
通称コマーシャルシルバーやトリプルナインと呼ばれ、SV1000の純銀と比べても、ほぼ遜色はありません。
一般的に純銀として流通しているものは、ほとんどがこの純度になります。
ただし、柔らかすぎるため、懐中時計のケースとしてはこの純銀は見られません。

SV958:
通称:ブリタニアシルバー(品位記号Britannia)と呼ばれ、以下で説明するSV925(スターリングシルバー)に代わり、1697~1720年にイギリスで銀の品位を95.84%に制定した時期があり、貨幣鋳造で使用されたものです。
これをブリタ二アと呼びますが、柔らかすぎて実用性が無かったため、すぐに元のスターリングシルバーに戻されました。
1720年6月以降イギリスでは、純銀の基準としてスターリングシルバーとブリタ二アシルバーの2つが純銀として認められています。

SV950:
通称五分落ちと呼ばれ、中南米製はメキシ力ンシルバーとも呼ばれます。
最近では配合が研究され、950シルバーでも実用に耐える硬さに仕上げられるようになったものの、五分落ちの製品はあまり普及していません。

SV925:
通称スターリングシルバー(品位記号Sterling)と呼ばれ、SV958でも登場したことから、イギリススターリングと呼ばれています。
92.5%の銀と銅などの金属を7.5%混ぜた合金です。イギリスの銀食器として用いられる素材としても有名です。
また、高級懐中時計の銀無垢としてもおおく用いられています。
懐中時計の場合、ケース蓋の裏側に”0.925″ あるいは”STERLING” と刻印されている場合には、この純度92.5%のスターリングシルバーのことを言います。
また一般的に、懐中時計やチェーンに用いられるのは、このSV925スターリングシルバーが最高品位だと言われています。
この純度は厳格に規定されており、これ以上でもこれ以下の純度でもスターリングシルバーと呼ぶことはできません。
その背景に、金銀本位制という通貨制度があり、比率が変わると価値も変わってしまうため、厳格に規定されていたのです。

SV900:
コインシルバーと呼ばれ、90%の銀と10%の銅や亜鉛を混ぜた合金です。
雑貨や、装飾品の他、その名の通り、硬貨である銀貨としても使われています。
混ぜる金属によってピンクやイエローなどの色を付けることも可能です。
懐中時計の場合、ケース蓋の裏側に”0.900″ あるいは”COIN” と刻印されている場合は、この純度90.0%のコインシルバーです。
懐中時計のケースでも、このコインシルバーを使ったものが多く、バランスの取れた素材の金属だといえそうです。

SV833:
通称ダッチシルバーと呼ばれています。
銀の含有率が83.3%。
ダッチ(Dutch)と呼ばれるように、才ランダの標準的な銀の規格です。

SV830:
シルバー925に比べて銀含有率は低いものの、加工性に優れている点と、加工後の硬度が925より強い点が特徴です。
色合いはシルバー925とほとんど変わりませんが、若干黒味を帯びているのが特徴です。

SV826:
通称ダ二ッシュシルバーと呼ばれ、銀の含有率が82.6%あります。
ダニッシュ(Danish)と呼ばれるように、デンマークの標準的な銀の規格です。

SV800:
通称ジャーマンシルバー(品位記号German)と呼ばれ、銀の含有率が80.0%あります。
主にドイツなどで使用される伝統的な銀食器がこの等級の銀を使用しています。
ジャーマンシルバーは、オメガの懐中時計のケースにもよく用いられています。

以上をまとめてみますと、以下のようになります。

SV1000:ピュアシルバー。化学的な分類としての純銀。
SV999:コマーシャルシルバー、トリプルナイン。SV1000とほぼ遜色の無い銀。一般的に純銀として流通するもの。
SV958:ブリタニアシルバー。イギリスで17世紀前後に貨幣鋳造に使用された品位。柔らかすぎて実用性に乏しい。
SV950:五分落ち、メキシカンシルバー。合金の研究が進み、実用的な硬さも作られているが、あまり普及していない。
SV925:スターリングシルバー。イギリスで純銀の基準として規定されているシルバーのこと。
SV900:コインシルバー。硬貨に多く使われたシルバー。合金の配合により、ピンクやイエローなどの色を付けることも可能。
SV833:ダッチシルバー。純度83.3%の銀。その名の通り、オランダでは標準的な銀の規格とされる。
SV830:純度83%の銀。スターリングなどに比べて、銀の含有率は下がるが、細かな加工性に優れ、強度が高く色合いも良い。
SV826:ダニッシュシルバー。純度82.6%の銀。デンマークの標準的な銀の規格。
SV800:ジャーマンシルバー。ドイツの銀食器などに使われる。イギリス以外ではSV800までが銀として認められることが多い。

SVxxxや、0.925などの刻印が無いもの、あるいは上記より純度が低いものは、ソリッドシルバーと呼ばれて区別されるのが一般的とされています。

さて、分類のうんちくはさておき、懐中時計のケースやチェーンとしてシルバーを見るとき、純度やケーストータルでの
価値を採るか、装飾品としての美しさを採るかのいずれかではないでしょうか。

多分上記のような分類を少し知っている方なら、”スターリングシルバー” という響きに甘い囁きを感じるかも知れません

しかし、昨日・今日作ったものではなく、100年超えで受け継がれてきた銀ケースは案外ツルツルだったりします。
ケースの装飾が殆ど残っていないのです。
スターリングシルバー製というと、この響きと現実のギャップにいつも戸惑いをかんじてしまうのではないでしょうか。

このツルツルした印象は、ケースが16、18と大型になるほど、本体重量が増すために摩耗が顕著になります。
ならば、いっそのこと、装飾の全く入らないプレーンなものなら大丈夫?!…かというと、それもまた難しいものです。

プレーンなケースは逆に凹みが目立ってしまうからです。それこそ状態の良いものが求められます。
しかし、スターリングシルバーで納得の行くレベルのものは極めて少ないのではないでしょうか。

それでも例外として、スターリングシルバーの大型ケースを仕入れることもあります。
但し、ムーブメントや文字盤などの稀少性と天秤にかけて、トータルで価値が高い!と判断した場合に限定しています。

盲目的に、銀時計が欲しい!スターリング以外は絶対嫌だ!・・・と思わないことです。

その中で、バランス的に良いなと感じるのはSV900のコインシルバーとSV800のジャーマンシルバーでしょうか。
純度の点では、スターリングには僅かに劣りますが、これらは硬さがある分、加工性に優れて繊細なデザインのものが多いです。
シルバーとしての輝きもそれほど劣りませんし、ケース自体の程度が良いものも多く存在します。

もちろん、スターリングを否定しているということではありません。
スターリングシルバーで程度の良いケースがあれば、当店でもなるべく仕入れるようにしています。
数は少ないですが、極々稀に良いものも流通することがあります。

しかし、懐中時計の醍醐味は純度だけではないハズです。やはり、手にしたときの満足感だと思うのです。
これかっこいいなぁ~♪ と、心から満たされる感覚ではないでしょうか。数値だけでは決して語り尽くせない部分です。

ですから、銀の懐中時計が欲しい!と感じた時は、銀の純度と装飾の具合を感じつつ、他の状態も見ていただきたいと思います。
スペックだけで判断せずに、トータルでご自身の魂に、琴線に触れるものがあるかを感じ取って欲しいなと思います。

銀時計は純度だけを見ず、トータルで、そしてハートで見る。
銀時計を選ぶときに何となくそんな想いを感じ取って頂けると嬉しいです