【栄誉ある懐中時計たち】ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

昔は、作った人の名前を刻んだ時計はよくありました。
そこには時計師の自信と誇りがあらわれています。それは日本刀に刻まれた銘と同じです。

それとは別に時計を買った人、つまりファスト・オーナーが自分の名前を刻んだ時計も、多くはありませんがいくつも残っています。
紛失したり、盗難にあったりするのを防ぐ策でもあったのだろうと思います。
あるいは、気に入った時計を手に入れた満足感のあらわれと見ることもできるかと思います。
懐中時計は、18世紀、19世紀の紳士たちにとって、そのくらいの値打ちのあるものだったのです。

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

Y.ネイラーと筆記体で彫られたイギリス王室御用達の時計師トーマス・ラッセル父子の作った両蓋時計です。
ラッセル父子は、リヴァプールに工房をかまえた時計師です。
ホールマークによると、1896年の作です。
分厚い銀のケースに入った時計は、ネイラー氏がかなり高い社会的地位にあったことを暗示しているようです。
直径5.5cm。

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

1837年ジョン・サンダース氏の買った年を刻んだ懐中時計です。
時計を買えば、生涯使うというのが普通だった当事、買った年の記憶は鮮やかに残るはずです。
買った年を彫った時計は、他にあまり見られません。
サンダース氏は、よほど几帳面な人だったのでしょうか。
作った時計師はテンターデンに住むウイリアム・バーチ氏。
ホールマークは1835年のペア・ケース(二重ケース)。
ベイリーの「時計師事典」にものっている人です。
重くがっしりして、男っぽい懐中時計をサンダース氏は大事にしていたのだと思います。使っている割りにはいたみは少ないです。
直径5.6cm。

H.ヒルシュ氏の懐中時計は、小型で銀側の彫りの多いケースに、レッドバレー・ロード61番と住所まで刻んであります。
ケース一面の彫刻だけでなく、文字盤にも花の模様が描かれてある、愛らしい婦人時計です。
スイス製の機械が、イギリス製のケースに入っています。
ホールマークはロンドン1882年。
直径4.2cm。

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

ファスト・オーナーの名を刻んだ懐中時計

日本の国鉄では、鉄道時計は貸与品でした。
アメリカの鉄道では、普通乗務員が自費で購入しました。
長期分割払いの方法をとっていたようです。
イリノイ社の1910年製。
金張り、21石、ダブルローラー脱進機。
文字盤は1から10までの数字を刻んだモンゴメリー・ダイヤル。
サンタフェ鉄道用の特別なつくりをしています。
裏蓋にジョージ・テンプリーというオーナーの名前が筆記体で彫られています。
サンタフェ鉄道の乗務員だったのでしょうか。
広大なアメリカ大陸を驀進する列車を引っ張る機関車に立っている老機関士の姿が浮かんできます。
直径4.5cm。