【栄誉ある懐中時計たち】芥川賞の懐中時計

芥川賞の懐中時計

文学上の業績をたたえられて贈られる文学賞には、懐中時計が正賞になることが少なくありません。芥川賞、直木賞は1935年に始まりました。正賞はもちろん時計で、ときには腕時計もありましたが、ほとんどは懐中時計でした。

開高健さんは、ロンジンの腕時計をもらいました。開高さんはどうしても懐中時計がほしくて、後に薄型の両蓋懐中時計と取り替えてもらいました。こういう例は他にはないと思います。

堀田善衛さんは、受賞のあと北海道へ行き、月寒の牧場に寝転んで一日過ごしたときに、そのとき芥川賞の時計を落としてしまいました。取って返して探してみたのですが、とうとう見つかりませんでした。その無念さをエッセイに残しています。

石原慎太郎さんは、先輩から「金は落としてもいいけれどね。時計はちゃんとしまっておきなさい」と言われたそうです。

小田獄夫さんは、戦時中に兵舎で盗まれ「時計を失ったことは、やはり残念である」と書いています。

戦時中、時計が入手できなくて、正賞が壷やら硯に替えられた方には、戦後時計が届けられました。それくらい受賞者も文藝春秋社も、時計には執着していました。それは、副賞が500円であったころから、100万円に増額された今も変わりません。

ところがこのごろの新聞は、100万円のお金に目がくらんだわけではないでしょうが、正賞の時計は省いて、副賞100万円だけしか取り上げられないところが多いです。今度芥川賞、直木賞が発表されたときには、新聞記事には注意してみましょう。正賞である時計も甘く見られた結果ですね。

作家の方々も、時計には強い関心をもっていながら、メーカーの名前あるいはブランド名や仕様には、あまり注意は払わないらしく、どんな時計かはなかなかわかりません。

今までに、作家の方々が書かれたエッセイなどから拾い集めた時計の銘柄は、以下のとおりです。

ロンジン 6回
オメガ 5回
ウォルサム 3回
モバード 2回
ロレックス 1回
インターナショナル 1回
ランコ 1回
セイコークオーツ 1回以上

セイコークオーツは、第72回依頼継続して使われているということになっています。
しかし、95回にはオメガが使われているといわれはっきりしていません。
もし、95回を除いて72回から117回までクオーツということになると、44回x3人として132個、4人とすれば176個くらいがセイコークオーツということになります。
日本経済新聞によれば、特注の銀側ということですが、銀側なのかどうかは不明です。

芥川賞の場合、どんな時計を使うかについてのはっきりした基準はなかったそうです。一流ということではありましたが、戦争によって品物がそろわなくなると、時計店と相談してその都度適宜選んだそうです。芥川賞、直木賞の時計が市場に出ることはまずありません。数も少ないし、受賞者の名前が明記されているからです。

芥川賞の懐中時計

芥川賞の懐中時計

セイコークオーツ
芥川賞・直木賞100回記念展

芥川賞の懐中時計

芥川賞の懐中時計

ランコ・エキストラ17石(スイス製)